僕らの街には夢がある
去年の暮れの話です。
地域決勝敗退が決まって、サポーターのこころの中には、ぽっかりと大きな穴が空いていました。
次シーズンへ向けてチーム体制が変わるようだとか、誰々選手が辞めるなんて噂が風にのってやってきていた頃の話です。
ある選手がチームに残るらしい、という話が一部のサポーターの間を駆け抜けました。
その選手は、Jのクラブからレンタルでやってきた選手でした。
私は、彼がてっきり元のクラブに戻るものだと思っていたので、それを聞いてびっくりしました。
戻る場所があるんだから戻るだろ。普通。と思ったのです。
「どうして残るつもりになったんやろ?」と私は聞きました。
その答えを聞いて、私は息をするのも忘れるぐらい衝撃を受けたのです。
「岡山には夢があるから、って言うたらしいで。」
木村社長が掲げた「子どもたちに夢を!」というスローガンはすでにあったし、ファジアーノがJリーグという夢を追いかけていることも十分すぎるぐらい知っているつもりでした。
だけど、私たちが目指しているJという場所から来た選手に、「岡山には夢がある」と改めて言われるまで、その本当の意味に気づいていなかったのかもしれません。
彼がいたクラブは、いわゆる「オリジナル10」のクラブで、最初からJがあった街です。
岡山はJのない街として、そのことを嘆きながら長い間過ごしてきました。
Jのない街であるということは、これから街にクラブを作っていけるということです。
夢というのは、誰かに叶えてもらうものではありません。
自分たちで叶えていくものです。
自分たちで叶えていけるからこそ、まだ見ぬ場所のことを思い描いてワクワクできるのです。
Jから来た選手は、そんなJのない街・岡山の光景を見て、「岡山にはJはないけど、叶えていける夢があるじゃないか」と言ったように私は思えます。
そのことをまさか選手から教えられるとは思いませんでした。
それも、Jから来た選手に。
私たちサポーターは、選手を励ましているようで、実は選手からいつも励まされているように思います。
選手のあきらめないプレーを見て、それを自分の人生とだぶらせて何かを学んだ人もいるでしょう。
「がんばれ!」と言うとき、まるで自分自身に言っているように思えるときもあります。
私は、「夢を持って立ち向かえ!」と選手に言っているつもりだったのに、選手から「岡山には夢がある」と教えられたのです。
選手が教えてくれたこの言葉を大切にして、「僕らの街には夢がある」というダンマクを作りました。
地域決勝の地に行けない人たちに、寄せ書きもしてもらいました。
ファジアーノのホームゲームを支えてくれたボランティアスタッフたちにも書いてもらいました。
昨年までファジアーノに在籍していた選手にも書いてもらいました。その中の一人は「俺たちの夢」と書きました。
ファジアーノの運命が決まる熊谷の地に、このダンマクを掲げようと思います。
夢があるなら、地域決勝なんて恐れることはないのです。
だって、夢っていうのは叶うかどうか神様が決めるんじゃなくて、自分たちで叶えていくものだから。
music: Beautiful Day(Rika Shinohara)